序章

「にいちゃん!煙草買って来てくれへんか?」


小綺麗でダボダボのねずみ色した


作業服を着た常連のおっちゃんが

吸いきったセブンスターの空箱を


ぎゅっと捻りながら言った。


「はいっ!セブンスターですね?」


今でも 従業員が、ここまでのサービスを

する事などないと思うが


もちろん その当時も同じである。


ただ、この男の場合 出来る限り


トラブルを回避したいという思いもあったが


一種の悪賢い性格からくるものかも知れない。


客に嫌われて、嫌な思いをして働くより

出来る事なら 好かれて気分良く働いた方が

よっぽど得だと思っていたのである。



昭和55年 沖縄ーー



だから 機械のトラブルで呼ばれた場合


トラブル解消後、中のコインを数十枚取って


マシンの下皿へ 入れてやっていた。


普通 全国何処の遊技場でも


機械のトラブルの場合は


トラブル解消後はコイン3枚分程度のサービスと


ほとんどの店舗で、決められているものだ。


だが、男は必要以上のサービスをしてやり


それ以外の場合でも

客のある程度の我がままも


聞いてやっていた。

結果、公認ギャンブルという仕事柄

客とのトラブルが、絶えず


ほとんどの従業員が、客に嫌われている中で



彼だけは 違った。















2011年05月19日 Posted byバーバー at 23:29 │Comments(0)昭和 ギャンブル

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